S’s

Nikon S2 のファインダーには 50mmレンズ のフレームが描いてあるだけなのですが、扱い易さではむしろ 35mm くらいの広角を使った方が良いと聞くことが多々あります。望遠側は熟練を要しますが。
ところがニコンSマウントのレンズなんてものは事実上骨董品で、今からトーシロがうかつに手を出そうものなら大火傷必至と言っても過言ではないわけです。単純に高いだけでなく。正直なところ私も 50mm よりは 35mm あたりの画角の方が扱い慣れていて、できればその辺が欲しいのですが、Fマウントの同級品と比べて確実にゼロ一個増えるとあってはとても手が出るもんじゃありません。と、ここまでを踏まえて。

ざっくり説明すると(©鏡塵先生)S型ニコンというやつは、戦後復興期に日本光学(現ニコン)が民生分野に生き残りを賭けるべくM型ライカの構造とRFコンタックスのそれぞれ良い所を パチって 参考に設計したカメラで、レンズのマウント形状にはコンタックスのそれと物理的な互換性があります。

いちおう弁護しておくとパチモン云々は言うほど珍しい話でなく、他所のカメラのコピーなんてものは歯車作れる程度の加工技術を持った国なら当時全世界的にどこでもやっていたし、国内に限ってもブランドの頭文字がAからZまで揃うと言われたほどの各メーカがこぞって似たような事はやっていたのでした。もちろんその後の淘汰で皆さんご存知の各メーカしか生き残れなかったわけですが。
またあまりのコピー品の氾濫にブチ切れたのか、 Leitz (当時)が本気を出したのが名機 Leica M3 で、 RF では勝負にならないことを思い知った日本メーカが一斉に方針を転換した結果、現在の SLR の隆盛が始まるわけです。
また M3 の完成度があまりにも高すぎた結果、 Leitz は自分で自分の首を絞める結果になり、小うるさい Made in Occupied Japan の RF のコピー品はあらかた駆逐できた代わり、その後自らも何度も経営危機を迎える事になるのでした。
# だって高いんだもん<物は確かに良いけど

閑話休題。
S型ニコンのレンズマウントは前述の通りコンタックスと互換性がありますが、互換性があるのは物理的形状だけで、距離計と微妙に連動しない問題があります。設計の前提にないことをやっているので、これを問題と言えるかどうかは疑問でもありますが、ともかくS型ニコンのそれよりはコンタックスの方がレンズの種類もタマ数も豊富です。
よく知られているのは「無限遠が合わない」という問題ですが、35mm以下なら広角レンズの特性で被写界深度が深くなるために ごまかす 無視できるようになってきます。とは言えコンタックスだってライカと並ぶドイツカメラの双璧、いくら比較的手に入り易いからといって、やっぱり値段がそこらの量販品とはケタが違うわけで。

普通ならここで話が終わってしまうのですが、実はコンタックスには世界的に有名なパチモンが存在しまして、これを理解するには第二次世界大戦とその後の冷戦構造を理解しておかなければなりません。
というのも、ドイツ敗戦の時に何を思ったかソ連(当時)はコンタックスの工場を丸ごとパチる荒業をやらかして、「Киев (Kiev)」なるカメラを量産したのです。なにしろ工具から部品から技術者 ❗ から、文字通り根こそぎ拉致っただけあって出来上がったのはどこから見てもコンタックス、ついてる銘板だけロシア語というなかなかハラショーな代物だったのでした。まあ部品はすぐに底をついて、その後自力で供給するにつれて品質の方は推して知るべしになっていくわけですが、それにしても国家規模で spam でおなじみ「スーパーコピー」を地で行くようなムチャクチャさには脱帽するよりなし。
ただ腐ってもさすが設計はコンタックスで写りも言うほど悪くなく、それでいて共産圏ゆえお値段はリーズナブル、まともな個体が手に入ればかなりいい買い物になる、夢のような商品の登場とあいなるわけです。

まともな個体ならな!

単純に古い上にその他諸々ご賢察の事情で状態に個体差が大変大きくて、ただ並んでるからといってホイホイ手を出して良い物じゃないのです。不具合が出たからと言って簡単に修理に出せるものでもなし。
# 中身はコンタックスだからね

ああでも悩ましいなあもう!

TrackBack URL

栗田 榛名 について

このサーバの管理人
カテゴリー: カメラの余談 タグ: , , パーマリンク

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください